私の日常生活における最優先事項は “大好きな音楽を良い音で聴く” ことに尽きる。ところが去年の後半あたりから時々オーディオの調子が悪くなることがあり、右スピーカーから音が出なかったりとか、出ても高音域が弱かったりとかで気にはなっていたのだが、何故か次には普通に直っていたりしたので忙しさにかまけてついつい放置して(←これが一番アカンのよね...)しまっていた。
悪いことに今年に入ってからもその症状は変わらず、ついに先日右スピーカーから高音が全く出なくなってしまった。これはヤバい。とりあえずは片チャンネルだけでモノラル・レコードばかり聴くようにしたが、まさか一生モノラル盤ばかりを聴いて過ごすわけにもいかない。焦った私はこのスピーカーを買った「オーディオ南海」に電話して店主の尾崎さんに助けを求めた。
尾崎さんはヴィンテージ・オーディオ界で “関西にこの人あり” と言われるほどの存在で、先日も関東のマニアから交通費を出すからと泣きつかれてスピーカーの修理に行ってきたばかりというプロ中のプロである。事情を説明すると、とりあえず実際に音を聴いて診断しましょうとのことで往診に来て下さった。
まず音を出ししてプリ→パワーの順にコードを差し替えたり接点復活剤で磨いたりしながら対照実験を繰り返して原因を絞り込んでいく。アンプはプリ、パワー共に正常に機能していることがわかり、やはり右スピーカーのどこかが悪いに違いないという結論に達してリア・パネルを外された。私にとってはブラックボックスみたいな存在のスピーカーの中を初めて拝むことができて興味津々(゜o゜) 一番可能性が高いのがボイスコイルとのことで、持参された正常動作品と交換されて音出し確認してみたが、やはり高音域が出ない。
そうなると後はもうネットワークしか考えられないということで、“一度持ち帰って交換修理になります。その間は左スピーカーだけになりますけどいいですか?” と仰ったので、時間とお金はいくらかかってもかまいませんので、なんとかもう一度 “あの音” が聴けるようにして下さい... とお願いし、すべてを尾崎さんに託した。
それから待つこと3週間、ついに尾崎さんから “やっぱり高域のコンデンサーが死んでましたわ。似たような音の特性を持った物に交換したので持って行きます。” と連絡が入り、再度往診していただいた。ウチのヴァレンシアは1967年に発売された最初期型モデルで、“かれこれもう50年以上も現役バリバリで頑張ってきたんやから、むしろようもった方やと思いますよ。” と仰りながら新しいネットワークを装着して下さり、早速音出し確認することに。試聴盤のチョイスは “スモール・コンボをバックにしたヴォーカルが一番わかりやすいのでそっち系で...” と仰ったのを聞いて真っ先に頭に浮かんだのが女性ヴォーカル屈指の愛聴盤である「Helen Merrill」だった。ヘレン・メリルのかすれ気味なハスキー・ヴォイス、オシー・ジョンソンの瀟洒なブラッシュ、そしてこれ以上ないくらい煌びやかな音で歌心溢れるプレイを聴かせるクリフォード・ブラウンのトランペットと、高音域を試すならやはりコレしかないという確信を持って私はエマーシーのオリジナル盤をターンテーブルに乗せた。果たして我が愛機の高音域は蘇えるのか? 音が出たとしても左右の音のバランスは大丈夫なのか? 音が出るまでの数秒間はまさにハラハラドキドキで、まるで悠久のように感じられた。
結果としては、確かに右チャンネルの高音域は戻ったが、まだ完全復活とは言えず若干左チャンネルよりも弱い感じがする。そのことを尾崎さんに伝えると、“いや、まだ今付けたばっかりやからねぇ... エージングで音が馴染んできたら大丈夫やと思いますけど、もし万が一1週間たっても変わらんかったら電話下さい。調整しにきますから。” とのこと。後片付けを終えて二人でレコードを聴きながらお茶しているうちにも右チャンの音がどんどん戻ってきて、尾崎さんが帰られる頃にはクリフォード・ブラウンのトランペットが右スピーカーからもピヒャーッと迸り出るようになった。私が大喜びしていると尾崎さんも “大丈夫そうやねぇ... よかったよかった(^.^)” と我が事のように喜んで下さった。修理代も超良心的なお値段で、ホンマにもう西田辺に足を向けて寝れませんわ。
尾崎さんが帰られた後、私はこれまでの鬱憤を晴らすかのようにレコードを聴きまくった。「With The Beatles」や「Rubber Soul」のラウドカット盤を手始めに(←やっぱりそうなりますわな...)、ビートルズのUKオリジナル1G盤や「Led Zeppelin Ⅱ」RLホット・ミックス盤、ジャズではブルーノートの「Sonny Rollins Vol.2」「Moanin'」「Us Three」など、とにかく思いつく限りの轟音爆音盤を立て続けに聴きながらエージングを促している毎日で、その成果なのか(?)これぞアルテック!という感じのダイナミックでパンチのあるサウンドが完全復活してきて大喜びヽ(^o^)丿 まぁ今回は尾崎さんのおかげで何とか事なきを得たが、元はと言えば私のズボラな性格が招いたこと... レコードも大事やけど、それを鳴らすオーディオも常日頃からちゃーんとケアせなアカンなぁという教訓が骨身に沁みた出来事だった。