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Channel: shiotch7 の 明日なき暴走
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【70's ヘレン・メリル】「Helen Sings, Teddy Swings」「John Lewis / Helen Merrill」

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①「Helen Sings, Teddy Swings」
 私はジャズの全ての楽器の中ではブラッシュが一番好きだ。軽快にリズムを刻むあの “ザッ ザッ♪” という音を聴くだけでもう大喜びなのだが、そんな“ブラッシュ・バカ” の私が狂喜乱舞した1枚がこの「Helen Sings, Teddy Swings」だ。
 このレコードがリリースされた1970年というのはちょうどジャズの “暗黒時代” で、ヴォーカルのバッキング演奏もモードをこじらせたような奇天烈なものがあったりキモいエレピが入っていたりで要注意なのだが、ヘレンと共演しているテディ・ウィルソンはそういったアホバカ・ジャズとは激しく一線を画す王道ジャズの人だし、ビリー・ホリデイに因んだ選曲も私好みだったので迷わず購入。オリジナルは1970年にビクターから出た日本盤(SMJX-10111)で、巷に出回っている黄色ジャケのUS盤は1976年に Catalyst Records から出たリイシュー盤だ。
 このアルバムは誰が何と言おうとA面1曲目に収録されたA①「Summertime」が最大の聴きものだろう。そもそも「Summertime」という曲はオペラ「ポーギ―とベス」で使われた原曲がスロー・テンポなせいもあってか重苦しいヴァージョンが多くて個人的には辟易しており、軽やかにスイングするチェット・ベイカーのパリ録音ヴァージョンやクリス・コナーのダブル・エクスポージャー・ヴァージョンが私的ベストなのだが、テディ―・ウィルソンがバックを務めたこのA①もそれらと甲乙付け難いスインギーな歌と演奏だ。
 ここで鈍重な原曲を豪快にスイングさせている最大の要因は強烈なリズムで演奏をグイグイ引っ張っていく猪俣猛のブラッシュ・ワークだろう。とにかくこのブラッシュ、まるでタップダンスでも踊っているかのような感覚で気持ち良さそうにリズムを刻んでおり、ピアノはおろかヴォーカルよりも目立っているのだから笑ってしまう。私はこの演奏を聴いてすぐにバド・パウエルの「懐かしのストックホルム」を思い出したのだが、メロディーを奏でるような感覚で溌剌とリズムを刻んでいたカンザス・フィールズの爆裂ブラッシュ・ワーク(←あれをOKテイクにしたプロデューサーのエリントンの慧眼はさすがの一言!)を彷彿とさせる猪俣猛のプレイが圧巻だ。
 フロントのヴォーカルとバックのリズム・セクションのバランスが見事なのがB③「Pennies From Heaven」だ。軽快なリズムに乗って気持ち良さそうにスイングするヘレン姐さんが圧倒的に素晴らしい。特に姐さんがフェイクを織り交ぜながら絶妙な軽さで歌う “Be sure that your umbrella is upside down... ♪" のラインが好きだ。
 このレコードに関して残念なのは猪俣猛が参加しているのは全10曲中A①A⑤B③の3曲のみで、残りの7曲はレニー・マクブラウンが凡庸なドラムを叩いているせいか、スイング感がイマイチ。全曲猪俣猛が叩いていたら大傑作になっていたかもしれない。
hellen merrill teddy wilson summertime 1970


②「John Lewis / Helen Merrill」
 1977年に日本のトリオ・レコードからリリースされたこのアルバムはジョン・ルイスとの双頭アルバムという体裁を取っているが、アルバム全体を貫くトーンは紛れもなくジョン・ルイスのもので、ドラムがコニー・ケイだったり、選曲がMJQのレパートリーとダブることもあって、ヘレン・メリルがミルト抜きのMJQに客演しているかのような錯覚すら覚えてしまう。ただ、全9曲中でリズム・セクション入りの曲は3曲のみで残りの6曲はヴォーカルとピアノのデュオなのが実に残念。ロックであれジャズであれ、私は思わず身体が揺れるようなリズムが何よりも好きな人間なので、辛気臭いデュオは体質的に合わない。ということでこのアルバムを聴く時はいつもベースとドラムスの入った曲だけをつまみ聴きしている。
 まずはA①「ジャンゴ」だが、歌詞は無くてヘレン姐さんは全編ヴォーカリーズで押し通しており、ジョン・ルイスがヘレン・メリルのスキャットを一つの楽器と見なして「ジャンゴ」という曲に落とし込んでいってるように聞こえる。私はてっきり「ジャンゴ」のヴォーカル・ヴァージョンが聴けるものと思って興味津々だったので初めて聴いた時は少し肩透かしを食ったような気分だったが、二度三度と聴くうちにこの曲が持つ哀愁をMJQとは一味違う形で見事に表現したジョン・ルイスの凄さがわかってきた。リチャード・デイヴィスの轟音ベースもめっちゃ気持ち良い。
 A④「クローズ・ユア・アイズ」はMJQっぽい雰囲気が濃厚に立ちこめるトラックで、ミルトのヴァイブの代わりと言っては何だがヒューバート・ロウズのフルートが実に良い味を出している。「ジャンゴ」もそうだが、ジョン・ルイスのピアノはこういうマイナー調のメロディアスな曲とは抜群の相性を誇っており、醸し出す哀愁がハンパないキラー・チューンになっている。
John Lewis & Helen Merrill - Django

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