カーティス・不ラーの「Blues-ette」は私にとって特別なレコードである。ちょうど1990年代に入って間なしの頃だったと思うが、突然全米チャートの集計方法が改悪されて汚らしい音を撒き散らすグランジ/オルタナ・ロックやキモいファルセット・コーラスに虫唾が走るネオ・ソウル、ワケのわからんヒップホップといった私の嗜好とは真逆のクソ音楽一色に洋楽界が染まってしまい、毎週「American Top 40」を聴くのを楽しみに生きてきた私は “これから一体何を聴いたらエエんや...” と目の前が真っ暗になった。親しみやすいメロディーとノリの良さが魅力だった80'sミュージックが大好きだった私にとっては気持ちの良い秋の晴天からいきなり放射能雨の嵐が襲ってきたようなモンである。
そんな時にテレビのCM(←タケダのアリナミンVドリンク)で偶然耳にしたのがカーティス・フラーの「Five Spot After Dark」だった。そのクールな雰囲気が気に入った私はすぐに「Five Spot After Dark」が入っている「Blues-ette」のCDを買いに走ったのだが、今から思えばそれが私にとってジャズ初体験となった。ジミー・ギャリソンとアル・ヘアウッドが生み出す盤石のフォービート・リズムに乗って展開されるフォービート・ジャズは当時に私にとってはまさに干天の慈雨とでもいうべきもので、そのカッコ良さに “ジャズってめちゃくちゃエエやん!” と感動(≧▽≦) 洋楽ロックと歌謡曲しか聴いたことがなかった私にとって、歌のないインスト曲でこれほどまでに心を鷲づかみにされたのはベンチャーズを除けば初めてだったが、兎にも角にもこのアルバムとの出会いがなければジャズレコ屋巡りで901さんに出会うこともなかったろうし、その901さんの影響で黄パロを買い始めることもなかっただろうと思うと、まさに私の音楽人生を変えた1枚なのだ。
Curtis Fuller - Five Spot After Dark
あれから約30年、私がジャズに求めるノリノリのスウィング感、美しいメロディー、そしてキレッキレの演奏といった要素をググッと1枚のレコードに凝縮したかのようなこの「Blues-ette」は、ビートルズと同様の最恵盤(?)待遇扱いでモノラル/ステレオを問わずに音の良さそうなのを見つけたら迷わずに買ってきたのだが、つい最近珍しい盤を1枚手に入れたので今日はそいつを取り上げようと思う。
そもそもこのレコードを出しているサヴォイというレーベルは今や研究し尽くされた感のあるブルーノートとかと違ってまだまだ謎な部分が多い。12インチの最初期盤のセンター・レーベルは赤色で、その後あずき色(マルーン)⇒こげ茶色へと変わっていくのだが、初期盤っぽくてRVG刻印があるのに音がイマイチだったり、その逆でこげ茶色レーベルなのに意外と音が良かったりとか、ホンマに “実際に聴いてみるまで音の良否はわからない” というマニア泣かせのレーベルなのだ。
私はモダン・ジャズに関しては基本的にモノラル至上主義で、このレコードも20年くらい前に1stプレスのモノラル赤色レーベル盤を手に入れて(当時4万円で買ったが今なら十数万円はすると思う... ホンマに住みにくい世の中になったものだ...)それで満足していたのだが、ステレオ盤の方はいくら探しても赤色レーベル盤が市場に出てこず、仕方なく2ndプレスのマルーンレーベル盤でお茶を濁していた。
今回見つけたマルーンレーベル盤は手持ちのステレオ2ndプレス盤とデッドワックスに刻まれた刻印は “RVG STEREO SSST-13006-A X10 / RVG STEREO SSST-13006-B X20 211”と全く同じながら、センター・レーベルのデザインが微妙に異なっていてアルバム・タイトル名の左上と右上の2ヶ所に “STEREO” 表示があり、Discogsを始めとしてネット上をくまなく探してもどこにも載っていないのだ。リア・カヴァーのデザインも2ndプレス盤のそれと異なっていて左上に小さく STEREOPHONIC、右上に SAVOY ST 13006 と記されており、これが何と幻(?)のステレオ赤レーベル盤と全く同じなのだ。大好きな「Blues-ette」は何枚あってもエエわいと思っていたのと8,000円というお手頃価格だったこともあって私は即購入を決めた。
届いた盤はややスリキズが目立つVGレベル。手持ちのマルーン盤と数回聴き比べをやってみたが、デッドワックス部分の刻印が同じだけあって基本的に音の差は無く、どちらも鮮烈で生々しいステレオ・サウンドが楽しめた。これはあくまでも私の推測だが、今回手に入れたレコードはちょうど1stプレス(1959年)と2ndプレス(1963年)の間の過渡期に作られたもので、ジャケットは1stプレス分のをそのまま流用し、センター・レーベルはマルーン色の最初期で STEREO録音盤であることを強調するためにこのようなデザインになったのではないかと思う。
ということで、レコード棚にまたまた音の良い「Blues-ette」が増えたのだが、様々なヴァージョンが出ているこのレコード、真に音が良いのはモノラルなら赤色レーベル1stプレス盤一択(1964年のマルーン2ndプレス盤は音の迫力がイマイチ)、ステレオならこのマルーン2ndプレスか赤色1stプレスだろう。裏ジャケ下の住所欄に “P.O.BOX 1000” 表記があるレイター・プレス盤は情けないくらいにショボい音なので(←昔買ってすぐに売っ払った...)気をつけましょう。
Blues-Ette