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Channel: shiotch7 の 明日なき暴走
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おかえりなさい / 中島みゆき

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 中島みゆきの「おかえりなさい」というレコードは、最高傑作に推す人も多い「親愛なる者へ」と女の情念の臨界点みたいな「生きていてもいいですか」に挟まれる形で1979年にリリースされた彼女初のセルフ・カヴァー・アルバムで、研ナオコやちあきなおみ、加藤登紀子、日吉ミミ、桜田淳子らに提供した楽曲を彼女自身の歌唱でリメイクしたものだ。彼女はこの後も「御色なおし」「回帰熱」といったセルフ・カヴァー・アルバムをリリースしているが、私としては最も昭和歌謡色が強いこの「おかえりなさい」が一番好きで、その親しみ易さのせいもあってか彼女の全アルバム中で最もターンテーブルに乗る回数が多いレコードになっている。
 このアルバムは彼女が他の歌手のために書いた歌を自分でどのように歌いこなすのか、又オリジナル・ヴァージョンとはアレンジをどう変えてくるのかetc、聴きどころが満載なのだが、楽曲アレンジに関しては「追いかけてヨコハマ」を除けば彼女のヴォーカルを引き立てて楽曲の魅力を引き出しオリジナルとの差別化に成功していると思うし、彼女のシンガーとしての引き出しの多さはもちろん、職業作家としての能力の高さも再認識させられる素晴らしい出来になっている。
中島みゆき “おかえりなさい”(CTアルバム)を11分台で聴く


 それともう一つ、私はこのアルバムのおかげで研ナオコという素晴らしい歌手の存在を知った。もちろんそれ以前から彼女のことは知ってはいたが、それはあくまでもお笑い芸人・色物としての彼女であって(→志村けんとのやり取りがめちゃくちゃ面白い “生卵・赤マムシ” のコントは何度観ても腹筋崩壊する笑撃の傑作だ!)スピ-カーに対峙して聴く歌手という認識は全くなかった。そんな私がこのアルバムを聴いて “へぇ~、あの研ナオコが中島みゆきの曲を歌ってんのか...” と興味を持ち、レンタルしてきて色々聴いてみたところ、これがもう “生卵・赤マムシ”と同一人物とは信じられないような昭和歌謡の王道を行くヴォーカルでビックリ(゜o゜)  それ以来私は彼女の大ファンになり、レコードもみゆき作品を中心に買い集めていった。
志村けん研ナオコ名作


 このアルバムではA①「あばよ」A③「サヨナラを伝えて」B⑤「強がりはよせヨ」と10曲中3曲がそんな研ナオコへの提供曲で占められているが、そのどれもがしみじみと心に沁みる名唱で、オリジナルの研ナオコ・ヴァージョン共々愛聴している。ちあきなおみに提供したB③「ルージュ」は、さすがちあきさんだけあって曲を自家薬籠中のものとして完璧な “ちあきワールド” を展開しているのに対し、みゆき姐さんは絶妙な湿り具合いの歌声と原作者ならではのシンプル・イズ・ベストな歌唱法でもって甲乙付け難いトラックに仕上げている。日吉ミミへの提供曲B②「世迷い言」はこのアルバム中で唯一彼女ではなく阿久悠が作詞を手掛けた曲なのだが、“よのなかばかなのよ~♪” という面白い回文(さかさことば)を見事に捌いてメロディーに乗せたみゆき姐さんはさすがの一言。わたしまけましたわ...
 このアルバムでは後藤次利(3曲)、福井峻(2曲)、鈴木茂(3曲)、戸塚修(2曲)の4人のアレンジャーが起用されて腕を競っており、福井は「わかれうた」、戸塚は「りばいばる」の編曲を担当していることもあってまさに “みゆき節の王道” といえる正統派アレンジなのに対し、後藤と鈴木はロック出身ということもあってどちらもユニークなアレンジになっている。鈴木が担当したA④「しあわせ芝居」なんか絶品だと思うし、B⑥「この空を飛べたら」のアウトロにフォルクローレ的なインストルメンタル・パートを追加することによって聴後感がオリジナルとはかなり違ってくるのも面白い。どうやら私の感性には鈴木アレンジがしっくりくるようだ。
 それに対して出来不出来の差が大きいのが後藤次利だ。A①「あばよ」ではすごくカッコいいアレンジでさすがやなぁ... と感心させられたが、B④「追いかけてヨコハマ」のふざけたアレンジは到底受け入れがたい。中国風のイントロは “横浜→中華街”という短絡的な発想なのか、そのバカバカしさに失笑を禁じ得ないが、それより何よりあのインベーダー・ゲームのような電子音の大量投下は一体何なのだ??? ふざけてんのか? ということで、このレコードで唯一気に入らないトラックがこの「追いかけてヨコハマ」なのだ。因みに後藤は次のアルバム「生きていてもいいですか」で全曲アレンジを担当することになるのだが、あのホラー(?)なアルバムは一応持ってはいるものの、ターンテーブルに乗った回数は彼女の全アルバム中、断トツで最下位に沈んでいる。どうやら後藤の音楽性とは相性が悪いようだ。とまぁこのように、オリジナル・ヴァージョンと聴き比べたり、4者4様のアレンジャーの個性を深掘りしたりと、様々な角度から楽しめるのがこの「おかえりなさい」というアルバムなのだ。
中島みゆき「おかえりなさい」提供のオリジナル曲編集

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